先に他界された女優樹木希林さんは配偶者を差し置いてロックだったと評されていた。まあそんな歌も歌っていたが。ちがうか。私達はTV画面やスクリーン等を通じてしか知るすべはない。若い頃から異彩を放っていたものの売りの老成感が足かせで役者としては分かり難かった。しかし晩年では追いついて収まり良くなった。この人は諦観の表現が前面に出ていたと思う。それをロックだぜと呼ぶのならそうなのだろう。
この夏思いもよらず負傷してしまい病院送りになってしまった。自分の不注意なので仕方ないとしても、ある日突然始まった病院暮らしには閉口している。基本的に騒々しいわたくしが伏しているのだから相当なものだ。人間追い込まれると本性が現れる。入院2日めに早くも転院したいなどと駄々をこね家族を困らせて耐性の低さを露呈した。いざこうなってみると在り来たりだが息災な日常の有り難さが骨身に沁みる。骨は折れているので10割増しだ。
わたくしのような外傷疾病の患者さんの病棟生活は重篤な場合を除いて軌道に乗ればおおむね退屈との戦いといってよい。リハビリはまた別の戦線なので本編ではちょとおいておく。とまれこうなったからはと半ばやけくそで片っ端から本を読んでいる。穏やかならざる心境での読書はちっとも入ってこない。そのようなある意味荒れた環境下で頁をめくった書籍タイトルをいくつかご紹介したい。
なぎさの媚薬 重松清 講談社文庫
重松さんが書く官能小説。全編にわたり撃ちまくる。大丈夫か重松さん。しかしながらテイストは隠せず仕立ては三流ものとは一線を画す。エロ小説に階級があるのかどうかは知るところではない。彼女を憐れむ歌というロックな題が冠された章が印象的だった。
The Long GoodBye Raymond Chandler ハヤカワ文庫
ぼやと頁を追っていくだけでも字幕の洋画を見ているような感覚に誘われる。人物も鮮やかであり吹き替えで日本語なんてしゃべっていない。文体とリズムが成せるハーモニー。有り得ない水準の異国感を味わう事が出来る。
なにがあってもありがとう 鮫島純子 あさ出版
著者は渋沢栄一の子孫。人生いかなる時でも前向きにと諭してくれる。生い立ちは良家の子女であり一般市民ではない。戦後、著名な宗教家の教えに薫陶を受けたとある。精神世界や宗教観等がこの人に及ぼした影響は小さくはなかろう。それはそれとして、平易にただ一途に語ろうとするこの人はつまり悟っている。骨折しても平気でありがとうといえるばさまに脱帽。
彼女の場合前面に出ているのは肯定精神である。そして基軸の有り様でみるならば、この人もやはりロックな人物に違いない。