オヤジはプラモ小僧だった。
この店のショーウィンドに張付いては当時の少年には夢のような
戦車や戦艦や飛行機やレーシングカーの色鮮やかな箱絵や完成モデルを
飽きもせづ、ずっと眺めていた。
プラモの箱には大原則がある。
それは、「デカイ箱は必ず高い」ということだ。
とてもわかりやすい。
学生の大きいお兄さんや大人の人があこがれのモデルのデカイ箱を買って
店を出て行くのを羨望のまなざしで見ていた。
そんな少年が年に1度だけ意を決して店に乗り込む日があった。
お正月にもらったお年玉と自分の貯金の合計から割り出して、
自分でこれぞと決めたあこがれのモデルを買いに行くのである。
だいたいが、冬の寒い日だったように思う。
デカイ箱は下のほうには置いていない。
お店の天井を埋め尽くすように手の届かない上のほうに置かれている。
日頃は見ているだけの触れることすら出来ないあこがれの箱を
お店の人に包んでもらい、抱えるようにしてお店を出る。
それからは少年にとって至福の期間だ。
オヤジはマニアでもないしコレクターでもないので
当然のことながらこの頃の宝物はもう現存していない。
しかし、大人になったいまでもこの店に一歩入ればたちまち少年だ。
最近では天井にプラモの箱を飾っている店だけでなく
天井を自転車のフレームで埋め尽くしている店も加わった。
オヤジになった少年は、
やはりあの頃と同じように買えないからずっと眺めている。
ポチッとひとつおねがいします!!