高知橋のあたりにラジオ屋があった。ラジカセが流行り始める頃のことだ。店には鈍色に光るオーディオ機器も並んでいたが、それらは少年にとっては大人の世界であり興味の対象ではなかった。店内の一角に電気パーツのコーナーがあった。そこが少年の目的地だった。小遣いを貯めてはそこに行き、抵抗やコンデンサや端子などの小さな部品を買った。でも一度には買えないので何度か繰り返しては収集するのだった。そして古書店で入手した雑誌の頁をお手本に、小さな発振器などの電気工作を作って遊ぶのだった。当時リレーという部品は高くて買えなかった記憶がある。その頃の子どもの電気工作の花形はラジオだった。高価なコイルパーツやトランジスタを用いたそれは、化粧箱入りの工作キットとして店のガラスケースの中で輝いていた。やがて少年は苦労して貯めた全財産でそれを手に入れる。そして完成をみるわけだが、少年の意に抗うかの如くラジオは鳴らなかった。もちろん諦めわるく子どもなりに粘ったのだろう。しかし彼のラジオが音を発することはなかった。
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